
| 佳作 | デビュー!! 『母しかいない家』 葵菇菇 (賞金30万円+副賞) BE・LOVE電子版2月号・「パルシィNEXT」(2/5〜)に掲載!! |
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| 上田美和先生 講評全文 |
すれ違う親子の感情がそれぞれの世代を通して描かれており人物描写にリアリティがあります。娘の気持ちにも母親の気持ちにも共感する部分があり、どこの国でも同じようなテーマで悩むんだなぁと興味深く拝見しました。 絵も雰囲気があっていいですね。特に木の幹の描き方、上手いです。「植物」が物語の重要アイテムなので絵で表現できるのはポイントが高い。 人物の描き分けは弱いかな。誰がどこで何をしているシーンなのか分からない箇所が散見され(特に友人と友人の母)、その都度読む手が止まってしまい、初見ではやや分かりにくい印象がありました。2度目、3度目と読み返すと理解が深まり伝わるものが多かっただけにもったいないと思います。 背景も遠近法が使われておらず距離感が分からないのでプロとして活躍するならぜひ習得して頂きたい。 主人公明英は「植物が好き」で、この題材があらゆるところにちりばめられていて効果的。母親の言葉のキツさを明英にからみつくイバラで表現したり、ドラマチックなシーンのコマ割りを木の枝で表現したり、母との和解に至るエピソードにも生かされていて上手いなと思いました。 主人公家族と友達家族の対比など小さいコマでも隅々まで配慮が行き届いているのもよかった。 ただセリフで畳みかける感じで感動する余裕がないというか、もう少し間や緩急がほしかったところ。例えば母が娘の育て方に失敗したと娘の友人・エヴァの言葉で気付くシーン、すぐに理解してエヴァにお礼を言うのですが反応が早すぎます。エヴァへのお礼は娘がちゃんと成長したんだとかみしめ、呑み込めたシーンで伝えても良かったし、実際それに近いことを言っている。感情を受け取る余韻を作れば、より印象的なシーンになったと思います。 ラストの大ゴマの見せ方は見事でした。 |
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| 佳作 | デビュー!! 『オッサンがスーパー銭湯で囲碁打ってるだけ』 素笛ゆたか (賞金30万円+副賞) BE・LOVE電子版3月号・「パルシィNEXT」(3/5〜)に掲載!! |
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| 上田美和先生 講評全文 |
作者の自己紹介の欄に「ネームが早く1~3日以内」と書いてあったんですがホントですか! この作品そんなに早く描いたなんて構成力上手すぎませんか、天才現るですよビビります。 絵も見せ方も上手く序盤からテンポよく引き込まれます。キャラも立ってるし登場の仕方もいい。潔癖ヤクザと銭湯という組み合わせ、そして囲碁を通しての初対面の相手との交流。スーパー銭湯の臨場感あふれる描写と主人公の心の壁がほぐれていく様が楽しくどんどんページをめくりたくなります。 さり気なく碁のレクチャーをはさみながら初心者にも分かりやすくしかも効果的にストーリーに落とし込んでいるところに、作者の恐るべき力量を感じました。いやぁすごい。 大城のキャラがなんでこんなに大胆で堂々としているのか読み進めていくうちにわかってそういうことかと納得。 ただ大城がスーパー銭湯の社長という事実が二村のセリフのみで語られているので、どこかで大事なシーンを見落としたかなと何度か読み返しましたが見当たらず。これは碁をやる者の洞察力で社長と見抜いたというやつですか? ちょっとここだけはとまどってしまいました。なんでそれが分かったの? と。見落としてたらすみません。 読後感もよく、最初と最後のページで同じ情景を差し込みつつ大きく変わった主人公の成長の対比も巧みで最後まで楽しめました。 |
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| 審査員特別賞 + 編集部特別賞 |
『ティラミス』 采野ふみ (賞金5万円+3万円) |
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| 上田美和先生 講評全文 |
審査員特別賞には「ティラミス」を推します。 面白い。冒頭から引き込まれる。 8ページという短い作品なのにコマ割りが割と大きくて、「え、これこんな感じでちゃんと収まるの?」とハラハラしながら読み進めていくとラストのおばあちゃんに全部持っていかれました笑 なにこの説得力、おばあちゃんどんな女優だったかもわからないのにすごい女優感がビシビシ伝わってくる。ラストまでおばあちゃんの姿をはっきり描写せず最後にドカンとドアップを持ってくる見せ方もニクい。 ティラミスに「私の手を引いて」という意味があると作中で言われていたので調べてみたら「私を元気づけて」とか「私を引っ張り上げて」という意味もあるんですね。まさにこの作品の肝じゃないですか。 「ティラミス」という題材をよくぞここまでキャラクターとストーリーに落とし込んだものだと、そして8ページにまとめあげたものだと感心します。あっぱれ。 シーンの切り替えの演出も見事ですね、心理描写をオーディションのセリフに重ねたり、瞳のアップから映像の画面に結び付けたりとセンスを感じる。落ちそうになった主人公を引き上げてくれるおばあちゃんの見せ場は拍手したくなるほど圧巻でした。 絵で見せるという漫画ならではの表現、いいですね。迫力あって楽しくて。 ティラミスも美味しそうで最後まで心つかまれっぱなしの8ページでした。 |
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| 奨励賞 | 『スロウス』 上野漫己 (賞金5万円) |
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| 上田美和先生 講評全文 |
勢いがあって楽しく一気に読めました。 怠惰な主人公と怠惰の精スロウスという組み合わせ。何が始まるんだという期待感があります。怠惰の精にひるむどころかこき使い怠惰を貫く主人公。そのふてぶてしさが逆に潔く見える不思議。主人公に影響されて変わっていく(体型が)スロウスも面白い。 難点は詰めが甘いところでしょうか。特にキャラクター。 ダイエットに成功した後のオフ会のくだりがまさにそうなのですが、このキャラじゃなくてもいい展開になってしまっている。意外性がないというか、ここで急に失速した感じ。雑っぽさが出てしまっている。それまでただダラけているだけなのにパンチの効いたセリフでこちらを圧倒していた主人公が特徴のないキャラになってしまっていて、更にスロウスも怠惰の精とは思えない行動。そこに説得力があればいいのですが、そうではなくせっかくいい感じにキャラが熟成してきていただけにもったいないと思いました。このキャラ達でなければできない行動や展開が見たかったです。 ラストは怠惰キャラが復活しててよかった。 |
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| 奨励賞 | 『なみなみならぬとも、』 鈴木日々喜 (賞金5万円) |
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| 上田美和先生 講評全文 |
男子二人がかっこよく描けてますね。ふとした表情もいい。絵に安定感があって上手くご飯も美味しそうに見えました。 構図や見せ方もいいしストーリーはテンポよく最後までまとまっています。 ですが、主人公のキャラと友人への思いが弱いかな。トモはユウヤとどんな関係を築きたかったのでしょうか? 自然消滅した以前の関係をトモが後悔しているなら今度はどんな風に大切にしようと思ったのかそこが描けてないと思いました。 会社の人に友人のことを軽んじられたらイヤなのに自分は友人のバイトを軽んじてしまう。自分の都合で優しくしたりしなかったり、自分の状況のいい時しか優しくできない危うさがどこから来るのか考えてみたら、主人公の核となるもの、絶対これだけは叶えたいとか、これだけはやり遂げたいという思いが見えてこないせいなのかなと。 後半ずっと主人公が受け身なのでラストうまくいったように見えますがそれはユウヤが最大限譲歩してくれたからで今後に不安が残ります。主人公自身が変わってないからです。 主人公に何をさせたいかそこをもっと深掘りしてほしかった。 |
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| 編集部特別賞 | 『窓越しの甘い記憶』 北風 (賞金3万円) |
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| 上田美和先生 講評全文 |
面白かったです。コマが詰まっていてセリフが多いんだけどそんなの気にせず一気に読めました。 キャラが魅力的だし絵も丁寧でデッサン力がありますね。 和菓子の情報量がすごいのだけど実際和菓子作りに関わっておられた方なのでしょうか? それとも取材でここまで?どちらにせよよく調べてあって、それが作品に厚みと説得力を持たせていて、神倉と店長のかけあいが生き生きと描かれとても興味深く読めました。 後半は衝撃の展開で主人公が神倉から店長にシフトするわけですが、神倉が実は亡くなってたという展開がやや強引な気もしました。いや、結果的に幽霊との和菓子修業だったというオチは面白かったし好きなのですが、幽霊なら鍵なくても入れたんじゃないかとか、どこまでリアルに掃除したり餡を作ったりできるんだろうとか細かい突っ込みどころがでてくるといいますか。でも2度目に読んで確認したり納得する楽しさはあるのでこれはこれでいいのかな。同じ作品で2度違う味を楽しめる。 それにしても見せ方が上手いですね。キャラも立ってるし和菓子も美味しそうで投稿歴2年半とは思えません。投稿なさらずともご自身でずっと描いていらしたのでしょうか。 絵もストーリーもこなれているので即戦力になりそうな方だと思いました。 |
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| 上田美和先生 【総評】 |
今回もレベルの高い作品が集まりました。8ページの短編から60ページの超大作までジャンルも舞台も様々でどの作品も楽しく拝見させていただきました。 さらに今回はなんと前回の1.5倍の投稿作が集まったそうです。すごい! なんと頼もしいことでしょう。 前回と今回審査員をさせていただいて、たくさんの才能のきらめきを目にして少女マンガはまだまだ広がっていくんだなと嬉しくなりました。 受賞されたみなさん、おめでとうございます。 受賞を逃したみなさんも、またぜひ投稿なさってください。心より応援しています。 |
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