『西園寺さんは家事をしない』(講談社)にて「家事」の面で「夫婦」や「家族」について考えさせられる作品を描いたひうらさとるさんと、『1122』(講談社)にて夫婦と性の問題について描いている渡辺ペコさん。
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〇対談スタート!
―――互いの作品を読んで感じたことは?
ひうら 私、もともと渡辺さんの作品が大好きで、『1122』も何回も読んでます。
渡辺 えええー!? ありがとうございます!
ひうら テーマもお話も、ものすごく素敵だと思います。いちこが夫のおとやと旅行に行って彼からセックスを拒否られた時に、怒って「発言小町にトピ立てるから!!」って言うじゃないですか? そういう彼女のシリアスになりすぎないキャラとか、女友達と喋るシーンがすごい好きで。いちこが自身の性欲を「凪」だと言って、それを友達が「いちこの性欲 詩的ね~」と言うところとか。ああいうのがすごく好きなんです。
渡辺 わあ、嬉しいです!
ひうら あらすじで書くと、ちょっと共感できない話じゃないですか(笑)。でも、あのいちこのキャラクターがあってすごく面白くなるという。
渡辺 後でひうらさんに伺いたいなと思っているのですが、私は本当にキャラクターの作り方がわからなくて。基本的に私が素で作ると、エネルギーとかテンションがどんどん低くなっていくんですよ(笑)。でもやっぱりマンガはエンタメだしフィクションだから、読む人を楽しませたい気持ちがある。なので低いところから上げる、という作業が必要になってくるんです。ジョークとかユーモア、癖、言い回しなどでキャラ付けすると言いますか、少しだけ上げる、みたいなことは意識していました。
ひうら なるほど、そうなんですね。
渡辺 マンガのテーマや題材にもよると思うのですが、『1122』はシリアスなところもあるけど、掛け合いなどの部分で調整がしやすかったんです。それもあって広く受け入れられたのだと思います。
ひうら 本当に各キャラクターが魅力的で、最高です。
渡辺 『西園寺さんは家事をしない』は、ストーリーラインもそうですけど、とにかく風通しがいい「陽」な感じがいいんですよね。そして登場人物が自立しているので、話が込み入ってきてもゴチャゴチャしないのがすごい。
ひうら そう、もめ事が起こらないんですよ(笑)。みんないい人になっちゃって事件が起こりづらい。
渡辺 ひうらさんが陽なのはもともとですか?
ひうら 実は私、エグい話とか大好きなんですけど、自分で描こうと思うと典型的なキャラにしかならなくて面白くならないんですよ。なのでもう諦めて明るい話にしようと思って。
渡辺 そうなんですね。本当にゴタゴタ、ジメジメがないんですよね、ひうらさんの作品って。
ひうら 連載が長くなるとライバルキャラも出てくるんですが、結果的にいい人になっちゃう。ツッコミ役がいない。
渡辺 そこが安心できるところなんでしょうね。恋敵も意地悪になるのかな~と思いきや、すごくいい感じで大好きになっちゃう(笑)。それをやろうと思ってやられているんじゃなくて、多分そういうふうに出来上がっていくんだろうなと。
ひうら キャラを愛して動かしたいし話を作っていきたいので、どうしても「この子にも何かいいところがあるはず」と思っちゃうんですよね。結局、人間を信じたいのだと思います。
渡辺 人間を信じたい。いいですね。それがひうらさんの作品の強みでもあるんでしょうね。
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〇「いい夫婦」「いい家族」について
―――『1122』のいちことおとやは、性的に問題はあれど強い絆で結ばれたいい夫婦に思えます。『西園寺さんは家事をしない』の西園寺さんと楠見父娘は、自分たちを「偽家族」と称しながらも互いを思いやって暮らす素敵な家族に見えます。あらためておふたりが考える「家族」とは?
ひうら うちは娘が中学3年生になって、すごくチーム感が出てきました。たとえば今日も、私と夫は東京に来ていて、夕方彼女も電車で来るんですが、「来る時にゴミ捨てといてね」とか「植木に水やっといて」とか、いろいろ頼めて助かっています。
渡辺 もう自宅で一人でお留守番できるんですか?
ひうら そうですね。夫の実家が近いので、親が不在の時は泊まりに行ったりしています。あと家事の分担ができるようになってきたことで皆で家を成り立たせている感じがして、「家族ってチームだな」という気がしています。
渡辺 チーム、いいですね。私もその答えにします!(笑)
ひうら あははは(笑)。
渡辺 私の娘は小学3年生で、まだちょっと戦力としては弱いんですね。でも「ここは自分が住む家である」という意識を持って、家事を分担して受け持ってくれるようになってすごく助かります。
ひうら そうよね。
渡辺 さっきひうらさんが「成り立たせる」とおっしゃいましたけど、本当に家事って家を成り立たせるための仕事ですよね。それだけに皆がやらなくてはならないことであり、自分のためにもやることだと思うんですね。もちろん経験値の差とか得意・不得意はあるにしても、それらを加味して分担して、皆で維持していくことが重要なのかなと思いました。
ひうら 本当にそうだと思います。
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〇「家事の分担」について
―――男性ならば家事をしなくても何も言われないけれど、女性の場合、どれだけ有能でも「家事をしない」ことがネガティブにとられる現実があります。おふたりは「家事」をどう捉えているのでしょうか?
ひうら 家事って数値で計れないものですし、家の中には目に見えない家事がたくさんあります。男性がよく「僕はゴミ出しをしています」と言いますが、妻が分別してまとめたゴミを集積所に運ぶのは、家事ではなく「お手伝い」ですよね(笑)。
渡辺 お手伝い。本当にそうですね。
ひうら 西園寺さんは同居人である楠見と事あるごとに話し合っていますが、一般家庭の場合、監督するのは妻なんですよね。いちいち妻が采配をとって、しかも夫が苦手なことで傷ついた場合、そのケアもしないといけない。結果的に「そんな面倒くさいことをするなら最初から自分でやったほうが早い」となっちゃう。
渡辺 西園寺さんはアイデアをお互いに出し合って、困ったことをちゃんと言い合うじゃないですか。実はあれが難しいんですよね。
ひうら ですよね。もしかしたら西園寺さんの場合、他人だから言えるのかもしれません。楠見とは恋愛関係でもないので。
渡辺 なるほど、甘えすぎない。そこが気持ちいいんですね、読んでいて。
ひうら すっごいラブラブで結婚して、「家事はぜんぶ私一人でやる!」と張り切っていた子が、子どもが生まれた途端にダンナへの興味を失くし、それと同時に家事をしないダンナへの不満が増大、というカップルをよく見ました。結婚前はあんなに路上で抱き合ってクルクルしてたのに(笑)。現実はそうなんだなあって。
渡辺 きっと両方あったらいいんでしょうね。客観的な家事の大変さを可視化できる、そして大まかにでも振り分けができるアプリと、フィーリングとか感情とか、アプリでは把握しきれないものの両方に対応できるもの。
ひうら そう、物理的なことの可視化はできても、感情までは把握できない。
渡辺 あとは伝え方も大事ですよね。たとえば忙しくてご飯を作れない日に、「今日は外食でいいよ」じゃなく「外食にしようよ」と言うだけで違うとか。ちょっと距離のある他人に対しては言わないことを、家族には言ってしまう。接し方が雑になる裏には、無意識の甘えがあるように思います。
ひうら ほんとそう。友達には言わないですもんね。うちの場合は逆に夫が家事をして料理も作ってくれるので、うっかり「外食でいいよ」と言いそうになる時があって「ヤバいヤバい!」と(笑)。
渡辺 危ない(笑)。私もたくさんあります! 他に気を付けていることはありますか?
ひうら 「ありがとう」は言うようにしていますね。やってもらっているのでダメ出しもしません。「味どう?」と聞かれたら「ちょっと塩気がキツいかもしれない」くらいは言いますけど。洗濯物がシワシワになっていても、自分で伸ばせばいい話なので何も言わない。お互いに自分が苦にならないことをやっている感じですね。
渡辺 わあ、理想的ですね。
ひうら 私は「水回りの掃除担当」なんですが、電動歯ブラシを置くところが段々茶色になっていくのがすごく気になるので、マメに拭いてきれいにしています。きれいだと自分が気持ちいいので、そこは苦にならないですね。範囲も狭いし、そんな時間もかからないですし、その割に達成感もあるし。
渡辺 生理的なものかもしれないですね。茶色くなって可視化されてから掃除すればいいやと思う人と、その前にやっておきたい人と。シンクまわりも、濡れたらすぐに拭くといいって聞きますよね。
ひうら そうなんです。鏡も水が飛んだらすぐに拭けば、曇らないままキープできます。
渡辺 私は性格が雑なので、私が家事をするという前提じゃなくても、その雑さを気にしない人がいいです。で、夫は私を上回る雑さなので(笑)。どうしても譲れないのは、男性が立って用を足すことでしょうか。夫には最初の段階で「座ってしてね」と言いました。立ったまますると、かなりの広範囲に飛沫が飛び散るじゃないですか!? 我が家のトイレじゃなくてもイヤです(笑)。
ひうら 確かにやめてほしいかも! なかには「座って用を足すなんて女みたいでイヤだ」と反発する男性もいますよね。うちの夫はもともと座るタイプで良かった(笑)。
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〇映像化についての思いを語る
―――2007年と10年には、ひうら先生原作の『ホタルノヒカリ』が綾瀬はるかさん主演でドラマ化。この夏には『1122』『西園寺さんは家事をしない』が、それぞれドラマ化されます。『1122 いいふうふ』でいちことおとやを演じるのは、高畑充希さんと岡田将生さん。火曜ドラマ『西園寺さんは家事をしない』で西園寺さんと楠見を演じるのは、松本若菜さんと松村北斗さん。自身の作品が他者の手で別の作品になることを、おふたりはどう感じているのでしょう?
渡辺 私は今回が初めての映像化になりますが、本当にありがたいです。お話をいただいた時からずっと、ものすごく大事に作っていただいているのを感じていて、不安が一切なかったんですね。たくさんの人が関わってくださっているなかで、それは多分すごく稀有なことなんじゃないかなと思いました。出来上がったプレビューを見せていただいたら、これがもう想像以上の完成度で。さっきもひうらさんに言いましたが「わー、立体だ!」と大感激(笑)。
ひうら 「立体! 三次元!」って(笑)。
渡辺 そう、自分の描いたキャラクターたちが三次元で喋ってるのが面白くて。原作を更に膨らませて観る人に届けやすくして、しかも世界観は大事にしていただいているので、もうありがたいやら嬉しいやら……。キャストも素晴らしい顔ぶれですしね。俳優さんって本当にすごいなと思いました。
ひうら 誰目線なんだって言われそうですが、私もファンとして誇らしいです。「完全再現や~!」と思いながら喜んでいます(笑)。
渡辺 嬉しいです! ありがとうございます。
ひうら 『ホタルノヒカリ』の時は、企画が立ってから半年くらいして「綾瀬はるかさんと藤木直人さんでいこうと思いますが、どうでしょうか?」と連絡をいただきました。「そ、そんなすごい人たちが!?」と驚いた記憶があります。特に綾瀬さんはそれまで『白夜行』のようなお嬢様役をやられていて、コメディは全然やっていらっしゃらなかったんですよ。なので「滅相もない、滅相もない! そもそも綾瀬さんは全然乾いてないし!」と思って(笑)。
渡辺 あははは(笑)。たしかに乾いてないですよね!
ひうら そうこうするうちにスチール写真が届いたので見たら、綾瀬さんがちょんまげ姿ですっごい汚い部屋にいたんです。最初はアラフォーくらいの年齢の役者さんが候補にあがっていたんですが、その時やっぱり実写だと本当に汚くなるので(笑)、若い方のほうがコメディとして成立するなあと感じたんですね。リアルすぎると悲壮感が出て、なんだか悲しい感じになっちゃうんですよ。
渡辺 なるほど~。本当に綾瀬さんの魅力が炸裂してましたよね!
ひうら 先ほど「原作を更に膨らませて」とおっしゃっていたけど、やっぱりメディアが全然違うのでね。もうお任せしようと思っています。
渡辺 ひうらさんは『ホタルノヒカリ』が初のドラマ化だったんですか?
ひうら そうなんです、初めてでした。今回の『西園寺さん~』もこのあいだ顔合わせがあったんですが、そういうのは久しぶりだったんで「ものすごくたくさんの人がいる!」とビックリしちゃって。スタッフさん含め100人くらいいるんですよ。普段は打ち合わせといっても担当さんと2~3人くらいのものなので、「なんだか大ごとになってしまった……」と焦りました(笑)。
渡辺 わかります~!
ひうら 主演の松本若菜さんと松村北斗さん、娘のルカ役の倉田瑛茉ちゃんのポスター撮りにもお邪魔したんですが、それがちょうど連載最終回のネームの前だったんですね。そうしたら4歳の瑛茉ちゃんが本当にちっちゃくて、「ああ~、これくらいちっちゃいんだー!」とキュンとしてしまって(笑)。
渡辺 リアルに感じられたんですね。ポスター拝見したけど本当に素敵でした!
ひうら そうなんです。3人にお会いしたことで、「この人たちは生きてるんだな」と実感できましたし、おかげで最終回のネームがイキイキ描けたので本当にありがたかったです。今は『1122 いいふうふ』ともども、放送・配信が始まるのを楽しみにしています。
渡辺 私も楽しみです!
―――楽しい対談、ありがとうございました!
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ひうらさとる
1984年「あなたと朝まで」(なかよしデラックス8月号)でデビュー。以降「ぽーきゅぱいん」「レピッシュ!」「月下美人」「プレイガールK」など、多くの話題作を発表している。2007年には「ホタルノヒカリ」が綾瀬はるか主演でテレビドラマ化され、大ヒットした。
渡辺ペコ
2004年「YOUNG YOU COLORS」にて「透明少女」でデビュー。2009年「ラウンダバウト」が第13回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選ばれる。著書は「にこたま」「東京膜」「おふろどうぞ」他多数。2020年に完結した「1122(いいふうふ)」は現在、累計146万部を突破。現在「モーニング・ツー」にて「恋じゃねえから」連載中。
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文/上田恵子
元記事:
「セックスレスで仲がいい夫婦」はありうるか…渡辺ペコ×ひうらさとるが語る「いい夫婦」(渡辺 ペコ,ひうら さとる,FRaU マンガ部) | FRaU (gendai.media)
「家事バトル」を防ぐには?漫画家が語る、いい夫婦と家事の関係「これだけは許せないこと」(渡辺 ペコ,ひうら さとる,FRaU マンガ部) | FRaU (gendai.media)
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